東京国際映画祭その4 「さようなら、ニック」
普通ではあり得ないような関係の人物同士の同居生活は、それだけで映画になるシチュエーションです。今作では、題名にもなっている一人の男性ニックから離婚を切り出された現在の妻ジェイドと、彼女が20年ほど前に略奪婚の形で奪った元妻マリアが、マンションの所有権が折半になっていることを理由に同居を始めるというストーリー。キャリア志向のジェイドと子育てに半生を捧げてきたマリアの対比や、更にはニックとマリアの娘が、ビジネスの能力がありながら子育てを選択するなど、社会的なテーマは見え隠れするものの、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督は余り深刻に考え込まずに、上映時間中笑って楽しんで、あとは忘れてもらって構わない、という程度のコメディとして設計しているように思いました。最近の映画には珍しく、楽しげなグラフィックのオープニングタイトルが早々にそう宣言しています。
主役の二人、イングリッド・ボルゾ・ベルダルとカッチャ・リーマンの掛け合いが作品の出来を左右する最大の要素ですが、見事に演じきっています。この手の作品の常として、反目し合う二人はやがて意気投合し、男性に共同戦線を張るものであり今作も大筋そのように進むのですが、結局余りお互いが歩み寄るということは無く、生き方の違いを認めるだけというのが大人のコメディとして仕上がっている点ではないでしょうか。
ドイツの監督がヨーロッパの女優を起用しているのに、ニューヨークで、英語で撮ることについては不思議に思ったのですが、上映後のQ&Aで同様の質問がありました。プロデューサー曰く、「ドイツにはこの作品に出てくるようなマンションの価格高騰が無いから、ニューヨークを舞台にした」とのこと。色々な理由で、映画の設定は決まるものですね。