三浦透子と「素敵なダイナマイトスキャンダル」

前略 三浦透子 様

70年代、80年代の伝説的な編集者、末井昭を主人公にした今作は、末井の生い立ちからやがては上京し、エロ雑誌の編集者としてサバイバルする日々を描いた、昭和日本のアンダーグラウンドカルチャーのオデッセイとも言うべき作品です。主人公は激動の日々といった表現に相応しいようなドラマチックな破天荒さよりも、むしろ時代に身を任せ、その果てに何があるのかを見極めるために観客とともに旅をする、水先案内人のような存在です。その飄々とした姿を、末井を演じる柄本佑が見事に演じ切っています。

奇妙なタイトルは、末井の母親(尾野真千子)が、末井がまだ幼い頃に結核を患い、夫に邪険にされ捨て鉢になり、近所の青年と不倫をした挙句ダイナマイトにて心中したことから来ています。しかしながらこの強烈なエピソードは、一見その後の末井の人生に大きな影響を与えていたり、関連しているように見えません。就職先の同僚からはその話を「ネタ」にしているんだろう、と揶揄される程度です。観客もまた、時折挿入されるそのエピソードと末井の振舞いに共通する何かを感じ取ろうとしますが、はっきりとはそう示されないまま映画は進みます。しかし、ダイナマイト自殺を図った母親が主人公の心に生き続けていることは間違いなく、映画の終盤まで一言も発しない母親の姿が幼い主人公の心に楔のように打ち込まれていたことをやがて観客は知るのです。

映画の中で、母親は幾らか気のふれた人物のように描かれています。そして、末井が欲情するのは真面目に夫を支える妻(前田敦子)ではなく、奔放な愛人の笛子(三浦透子)です。末井は新入社員として入社した笛子にストーカーまがいの行為で付きまとい、愛人にします。笛子は末井との関係が疎遠になると今後は逆に末井を追い回し、精神に変調をきたします。この笛子の変わり果てた姿は映画の中でも戦慄を覚える場面ですが、笛子はメンタル的に母親に近い存在のように思えます。主人公は何かに頼りながら精神のバランスを失う女性に、宿命的に欲情するのではないでしょうか。はっきりとは語られなくとも、末井が女性に求めるもの、そこには母親の面影が宿っていることは間違いありません。

そして、笛子を演じるあなた、三浦透子が圧倒的に素晴らしい。あくまで昭和的なエロスと危うさを、演技以上にその肉体で体現しています。変哲のないデスクワークの新入社員の姿から、裸身をさらし末井を翻弄し、やがては末井に結婚してくれとせがむ狂気の沙汰まで、時を追うごとに輝きを増していきます。いかにも昭和の香りのする(つまりは煙草の匂いが染みついていそうな)喫茶店で、末井に言い寄られ、つれなく席を離れた後、ふと戻ってくるあなたの姿を窓の外から捉えたシーン。天気の良い秋の日に、湖に浮かべたボートであなたが「カリフォルニアドリーミング」をハミングするシーン。この映画で最も心を打つシーンです。

気がふれたあなたが、服をはだけて末井の職場を訪れる戦慄のシーンは、増村保造の「妻は告白する」の若尾文子の伝説的なシーン、雨でずぶ濡れとなった着物姿の若尾が川口浩の職場に現れるシーンに重なります。この時の若尾も、愛に身を焦がし狂っていました。精神病院での飛び降り自殺未遂を経て、多少は正気に戻ったあなたは、また末井とベッドをともにします。その裸体には無数の傷が残っています。飛び降りの傷には見えない、体中を走る赤く細い傷跡。末井はその傷を指でなぞります。それは、女性もまた昭和という混沌の時代の棘(いばら)をかき分けて傷を負ったという証しでもあります。そして、その笛子を演じた三浦透子は、久し振りに女優の持つ身体の雄弁さを思い起こさせてくれる存在です。

 

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