浜辺美波と「君の膵臓をたべたい」

前略 浜辺美波 様

本名なのでしょうか?女優が手の届かないファンタジーの中の存在だった時代ならいざしらず、等身大化した現代日本においてこのように花鳥風月な、直喩な名前の女優が登場したことに動揺を隠せません。浜辺に打ち寄せる美しい波・・。映画館に入ると、そこに待っていたのはそのような名前から喚起される神秘性からは遠く離れた、美しいというよりはかなり幼い印象の容貌の少女でした。

今の日本映画に出てくる若い女性は、天真爛漫であるか、不機嫌な仏頂面かのどちらかでしかなくその間の繊細なニュアンスが失われているように思うのですが、今作でのあなたは完全に前者で、絵にかいたような「明るく元気な女の子」を演じています。

大方の予想通り、あなたは病に倒れ、それは当然のごとく「風立ちぬ」に代表される難病少女ものの系譜に連なる作品かと思わせるのですが、あなたは一向に咳込んだり吐血したり、ベッドで苦悶の表情を浮かべることも、メイクで顔を青白くさせることもなく天真爛漫な笑顔をたたえながらフィナーレに向かって突き進みます。

この作品が過去の難病ものと本質的に異なる点は、難病という状況を借りながら、難病が進行する過程や、なすすべもなく見守る家族や恋人の姿を描くことに無頓着であることではないでしょうか。あなたの病状を見守るはずの家族の姿が、最後まで一切描かれないのは演出の域を越えて奇異にさえ感じます。

では、この作品が描きたかったものは何か。それはゆっくりと確実に死を迎える過程の悲劇ではなく、突然ぷっつりと思いがけないきっかけで終わることもある生の在り方自体の不可思議さでしょう。

緩慢に苦悶の表情を浮かべるのではなく、ただただ明るく元気な普通の笑顔がぷっつりと奪われる状況の落差を表すのに、あなたのいたって普通な少女の姿はこの作品にとってなくてはならないものだと思われます。

私は、この作品をとりわけ素晴らしい出来栄えだとは思っていません。おおよそ一般的な社会常識と世界観を持っていれば描ける程度の物語であり、教訓や発見はそこには皆無だし、回想、図書館、既にいない恋人というモチーフから想起される岩井俊二監督の「ラブレター」と比べても、物語構成における仕掛は数段劣るように思われます。

では、この作品が失敗作かと言えばそんなことはなく、観客を泣かせるという機能的役割はしっかりと果たしていました。そこには勿論不器用な恋人役を演じた北村匠海の終始戸惑った表情と、あなたの初々しい笑顔が大きく貢献しています。

「亜人」ではちょっとした脇役を演じていましたが、あなたはティーンタレントの常道として、当面は青春恋愛映画中心に出演することになるのでしょう。今後スクリーンで拝見する機会を楽しみにしています。

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