東京国際映画祭その2 「シップ・イン・ア・ルーム」
線路を歩く人影を捉えたカメラがゆっくりとトラックバックして行く。カメラはそのままトンネルへと下がり、トンネルの入り口から射す光がだんだんと小さくなって、やがては星のような光源となる。オープニングはとても期待させる素晴らしい映像です。
ブルガリアのリュボミル・ムラデノフ監督の手による作品は、カメラマンである主人公が偶然出会った女性と、その引きこもりの弟と生活を始め、弟に町で撮った映像を見せることで外へ踏み出す一歩を与える、という内容です。
冒頭の映像での期待感はあるのですが、作品全体を牽引する興味の持たせ方が希薄で、更にこの作品の静けさ、セリフの少なさ、寡黙さに驚かされます。かなり地味な印象の作品です。また、疑問に思ったのは、引きこもりというテーマをどのような意図で選んだのか、日本同様、ブルガリアでも深刻な社会問題なのかはわかりませんが、取り扱いが少し軽いように思いました。町で撮った映像を見せるだけで社会との繋がりを求めるきっかけになるほど、簡単な問題ではないと思います。監督にとって本当に撮らずにはいられないリアルなテーマだったのでしょうか。
また、ユーモアの感覚が殆ど無い点も作品の魅力を減じていて残念に感じました。寡黙で説明が少ないのは監督の作風によるのでしょうが、人に例えるなら寡黙で気難しくても憎めない人がいるように、映画も幾らかのユーモアを持って、チャーミングであることを心がけるべきだと思います。