東京国際映画祭その3 「アケラット-ロヒンギャの祈り」
「ナポリ、輝きの陰で」「シップ・イン・ア・ルーム」に続いて、今作もまた随分と寡黙な作品です。余りセリフを喋らせないのが現代映画の潮流なのでしょうか?一見するとアイドルのような容姿のダフネ・ローが演じる主人公が魅力的で目が離せないのですが、物語では彼女がロヒンギャの人身売買ビジネスにかかわることになり、その可愛らしい容姿と裏腹に映画は陰惨さを深めて行きます。
ミャンマーのロヒンギャを巡る国際問題は報道でも取り上げられており、まさにタイムリーな作品で、監督のエドモンド・ヨウ氏の嗅覚が優れている証拠でしょう。映画作家にとって凄く重要な資質だと思います。
物語はロヒンギャを追う主人公が一転人身売買組織に追われる身となり、彼女を気に掛ける男性と一緒に逃げ続けるのですが、その逃げ方が緊迫感に掛けるというか、同じところをぐるぐる回っているような感じです。観客としてはそんなにのんびりしていないでもっと遠くに逃げないと、と思うのですが、逃げても逃げてもまた同じところに戻ってくるようで、アジア的なマジックリアリズムのような様相を呈していくところがとても面白かった。二人が灯台から、人身売買組織の死体処理を見つめるシーンの、漠然とした幻想的な雰囲気が良い。
ただ、この逃げ場のなさは、故郷を失ったロヒンギャ難民たちの「逃げろと言っても、一体どこに逃げればよいのか」という叫びでもあるのでしょう。現代アジアの問題に映画という武器で真摯に切り込んだ力作でした。