東京国際映画祭その6 佐々木心音と「最低。」

前略 佐々木心音 様

まずは、冒頭の男性との絡みのシーンで、スクリーンに映ったあなたがきれいではないことに驚かされます。私はこの作品を東京国際映画祭のプレミア上映で、女優たちの舞台挨拶とともに鑑賞しましたが、上映前に壇上で見せたあなたの美しくポジティブなオーラと、映画での殆どメイクもせず不機嫌な仏頂面を見せるあなたとのギャップに驚きました。女優は作品によって顔を変えるものとはいえ、あなたがこの作品の彩乃という役柄に入り込んでいることを伺わせます。そして、その役柄に努力して入り込んでいるのではなく、無理なく素のままで演じられているように見えるところがあなたの傑出した点だと感じました。

この彩乃というキャラクターは無為な日々からの転換を図るために職業としてAV女優になります。それを天職だと感じている反面、どこか後ろ暗さも感じており、陰鬱さを隠せない役どころです。あなたが舞台挨拶で見せる天真爛漫な性格の裏には、この彩乃と同質な憂鬱を抱えているからこそ自然にこの役柄を演じることが出来るのかも知れません。人物を描き分け、作品全体の統一感を損なわない瀬々敬久監督の卓越した演出により、森口彩乃も山田愛奈も光っていますし、とりわけ高岡早紀が演じる、山田愛奈の母親役が見せてくれるのですが、それ以上にあなたの演技が印象に残ります。「フィギュアなあなた」でも石井隆監督のもとで存在感を見せてくれましたが、あなたが映っているだけで画面が生き生きと輝き出すように感じます。あなた自身が映画に打ち込んだ結果としての達成というより、あなたは映画から愛されている女優というような印象です。この役柄に瀬々敬久監督はオーディションではなくあなたを指名したということですので、恐らく皆そのように感じているのではないでしょうか。

この作品はAV女優という存在を中心に据え、そのかかわりの中で3人の女性を描いていきます。性風俗産業を生業とする主人公の映画はロマンポルノに限らず過去数多く作られてきました。おおよそは日常の倦怠から脱するために、人間関係を刷新するために、生の実感を得るために職業選択をするというのがパターンであり、この作品もほぼその線にあると言えそうです。更に言えばこの作品でのAVは、女性の駆け込み寺のような存在として描かれており、極めて優しく実直そうにマネージャーを描いていることもその証左です。AVと他の性風俗との違いといえば、職業従事が親や友人や近隣に晒されるリスクが高いということでしょうか。実際、あなたが演じる彩乃も、その職業が親兄弟にばれ、激しい叱責を受けることになります。

あなたを案じて釧路から出てきた渡辺真起子演じるあなたの母親は、それでもAVを辞める意思を見せないため、あなたを案じる置手紙を残し田舎へ帰ることになります。あなたはその手紙を読み、全力疾走でバスターミナルへ向かいます。「帰りたくなったらいつでも帰ってきなさい」という手紙を残した母親に対して、そんなことは言わないで欲しい、私がもう故郷には帰れない人間だということは私がいちばんよく分かっていると訴えます。そのあなたを母親は黙って抱きしめる。この作品で最も感動的なシーンです。何かを失うことは了承している、それでも生きていくためには自分に出来ることをやるしかないのだという極めて真っ当な職業倫理観かも知れません。そしてその実直さは、化粧を落として素のままの自分をさらけ出して演じる佐々木心音という映画女優の姿と重なるのです。

 

 

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