ルイーズ・シュヴィヨットと「つかのまの愛人」

前略 ルイーズ・シュヴィヨット 様

監督はフィリップ・ガレル、脚本協力はジャン=クロード・カリエール、撮影はレナード・ベルタ。半世紀にわたりヨーロッパ映画を牽引してきたビッグネームたちが今回取り組んだのは、これが映画デビューになるあなたが演じる若き女性と中年男性、その娘(フィリップ・ガレルの娘が演じる)たちが織り成す恋愛劇です。70歳を越えるいわばマエストロとも言うべき老人たちが語るのに、若い女性の恋愛よりももっと他のテーマがありそうな気もするのですが、映画はあなたが演じる女子大生アリアーヌ(ルイーズ・ショヴィット)と大学教授ジル(エリック・カラヴァカ)の、大学構内での激しいセックスシーンから始まります。その後、同棲している二人のもとに、ジルの娘ジャンヌ(エステール・ガレル)が転がり込みます。ジャンヌは同棲している恋人が心変わりをし、追い出されたことに絶望しています。同い年でありながら父親の恋人という立場から、アリアーヌはまるでジャンヌの継母のようにふるまいますが、アリアーヌ自身も年の離れたジルを愛しながらも若い男性からの誘いを断つことが出来ないという問題を抱えています。

ほぼ同じスタッフで制作した前作「パリ、恋人たちの影」では売れない映画作家と献身的に支える妻、ふとしたきっかけから映画作家と愛人関係を結んでしまう若い女性スタッフの姿を描いていました。愛の問題はガレルのライフワークたるテーマであるとはいえ、この最新作ではより一層セックスの問題にも踏み込んでいることに驚かされます。特にアリアーヌは性衝動が抑えられない女性として描かれており、恋人への忠誠心と自身の性欲に正直であることは折り合いが付けられないのか、恋人の全てを受け入れようとするのなら若い男性や女性に向けられるその性欲も認めるべきではないか、という問題がこの作品のテーマになっています。

この作品ではあなたの飾り気がなく美しいルックスと艶やかな演技に眼が行きますが、公式ホームページによると当初はアリアーヌをエステール・ガレルが演じる予定だったのが、フィリップ・ガレルが教える演劇学校の生徒だったあなたをオーディションで見つけ、アリアーヌ役に抜擢したそうです。ガレル監督とあなたの関係が映画の中の教師と学生の関係にそのまま反映されているわけでは無いでしょうが、時として私小説的な様相を呈するガレル監督ですから、年の離れた女性に自分には失われた輝かしい何かを見て惹かれていくという構図は恐らく実際のあなたへの評価、関心にも当てはまるのではないでしょうか。

映画を通じて女性のナレーションが時折アリアーヌとジャンヌの心情を説明します。私は最初、このナレーションが交互に二人によってなされているのかと思っていましたが、観ているとどうも違うようです。このナレーションは二人ではない、もう一人の女性によるもののようです。映画の中にそれらしい人物が描かれていないため、このナレーションは映画の作者に近い第三者によるものと考えられます。前作の「パリ、恋人たちの影」の公式HPで、ガレル監督のインタビューに興味深い言葉があります。「映画というものは女性の心情であっても男性がセリフを書くことが多く、映画の機能は、男性の立場を強化する傾向に働く」。中年男性と若い女性の年の差恋愛を描くとき、殆どの作品が男性中心もしくは多分に男性の願望に沿って描かれていることが多いように思います。ガレル監督はその点を注意深く回避するために、いわば作者の声として女性のナレーションを選んだのかも知れません。また、アリアーヌを演じるあなたの女性性、肉体の存在感が男性中心になりかねないこの作品にバランスを与えると考え、あなたを抜擢したのではないでしょうか。

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