第19回東京フィルメックス「夜明け」
第19回東京フィルメックスコンペティション部門「夜明け」(広瀬奈々子監督)鑑賞。
暗い橋の上に立ち、弔いの花束を抱えた青年シンイチ(柳楽優弥)を捉えたショットから映画は始まります。その後、初老の哲郎(小林薫)が川辺に倒れたシンイチを助け介抱し、一緒に暮らし始める。シンイチは哲郎の経営する木工所で働き始めるが、シンイチには秘密があり・・。
こう書いてきて、昨日観たタイのコンペティション部門作品「マンタレイ」(プッティポン・アルンペン監督)と、身元不明の人間を助け生活を共にするという構図が似通っているし、二人の人間が同じ名前を持ち、影のように重なり合う点は一昨日鑑賞した中国のコンペティション部門作品「轢き殺された羊」(ペマツェテン監督)と共通点がある。偶然ではあるでしょうが、世界中でそれぞれで生まれる映画たちが似通った構造を持っていることに現代映画の共時性のようなものを感じさせます。そういったことに気付かされるのも映画祭の面白さです。
作品は過去の全てを捨て去ってしまいたい青年シンイチと、新しい人間関係を構築したい哲郎が、交錯する二つの円軌道のように接近してはやがて離れていく様を描いており、青年シンイチのナイーブさに呼応するように、おずおずと慎重に物語が提示されます。その為か、観客が物語世界へ自然に穏やかに接近することが出来る反面、アクチュアルで現代的な心情をテーマにしながらも現実に切り込んでいく強さのようなものに欠けるように感じました。このあたりは好き嫌いが分かれるところかも知れません。
監督の広瀬奈々子は是枝祐和監督の助手を務めていたとのこと。自分の脚本で、柳楽優弥や小林薫といった名優を起用して監督デビューが出来るというのは幸福なことだと思います。来年1月一般公開。