ヘイリー・スタインフェルドと「バンブルビー」

前略 ヘイリー・スタインフェルド 様

「バンブルビー」は、普通ならハリウッドのブロックバスターには眉をひそめる映画ファンの頬を緩ませる、チャーミングさを備えた作品です。「トランスフォーマー」シリーズのスピンオフとして作られた今作は、遠い銀河の宇宙戦争から敗走して地球に逃れた機械の生命体トランスフォーマーの一体(B-127)とそれを追う敵との攻防を描いてはいますが、中心は地球に不時着した際に記憶を失ったB-127と、父親を失い孤独さを感じている少女チャーリーとの交流の物語です。勿論盛大にCGを使ったアクションがクライマックスには用意されているのですが、この映画の魅力は一人の少女の冒険と恋、家族との不和と和解、つまりは青春の全てが描かれていることにあります。

物語はB-127が記憶を失い姿を消してから数年経った後でしょうか、80年代のカリフォルニアが舞台です。孤独で人づきあいもあまり上手くない少女チャーリーは、大好きだった父親を亡くし、母親とその新しい恋人、生意気な弟と暮らしています。当然、家族とはそりが合わない。週末には遊園地で屋台のバイトをし、いわゆるスクールカーストの頂点に君臨するセレブ生徒たちから、からかわれながらもわずかなバイト料で自分の車を手に入れることを夢見ています。チャーリーは父親と親しんだ自動車いじりに熱中しその知識や技術も修理工たちに一目置かれる腕前らしく、”カリフォルニア・ガールズ”らしい青春を謳歌するよりも油にまみれることに喜びを見出す、風変わりな少女です。そして、馴染みの自動車工場で、廃車同然に埃をかぶった車を見つけ主人にねだって譲ってもらうのですが、それが黄色いワーゲンにトランスフォームしたB-127との出会いになります。

銀河戦争の戦士であるB-127に可愛らしい「バンブルビー」と名付け、二人の友情が始まります。地球に不時着した時の軍からの攻撃により音声が出せなくなっているという設定が、ワーゲンのカーステレオを使って80年代のロックの歌詞に乗せてチャーリーと会話するという卓越したアイディアで観客を楽しませてくれますし、チャーリーに思いを寄せる内気な心優しい少年も巻き込んで、時にバンブルビーが大きな体を持て余し家の中一式を破壊してしまうスラップスティックな場面や青春映画らしいセレブ生徒たちへの過激な逆襲を経て、チャーリーが懸命に敵のロボットや軍からバンブルビーを守ろうとする姿が描かれます。ワーゲンにトランスフォームしたバンブルビーを駆って敵とカーチェースを繰り広げる姿は、日本のアニメ的な主人公とロボットの関係を思い起こさせます。

チャーリーを演じるのは「スウィート17モンスター(16年)」で世をすねる「拗らせ女子」を演じていたヘイリー・スタインフェルド。世渡りが下手で、少々ひねくれたキャラクターのガイドラインは、両作でかなり似通っています。仲良くなる男の子とのじれったい関係も似ている。この作品は80年代を舞台にし、プロデューサーでもあるスピルバーグやロバート・ゼメキスらが描いてきた少年少女たちの冒険譚にオマージュを捧げており、定番ともいえる孤独な少女と異形の来訪者との交流というストーリーも観る者に懐かしさ、安心感を与えてくれます。しかし、この作品の真の魅力は、そのいわば様式的な作劇に血肉を与えることに成功させた、ヘイリー・スタインフェルドの存在です。その仏頂面と笑顔のチャーミングさ、バンブルビーを救おうとする懸命さ、献身に観客は胸を熱くすることになります。監督のトラビス・ナイトは既にアニメーション映画「KUBO クボ 二本の弦の秘密(17年)」で確かな手腕を見せてくれましたが、作品のラストでヘイリー・スタインフェルドが共に闘い抜いた家族と不和を越えて抱擁し合うときに私たちが感じる晴々とした気持ちは、良質なエンターテイメント映画だけが提供できるものです。

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