メラニー・ロランと「エタニティ 永遠の花たちへ」

前略 メラニー・ロラン 様
トラン・アン・ユン監督の久し振りの新作ということで封切り日に劇場に駆けつけました。「ノルウェイの森」はかなり好きな作品だし、リー・ピンビンの撮影も楽しみです。冒頭、まずオドレイ・トトゥの美しさに驚かされます。それだけではなく、幼児、少年少女の子役から、果ては新生児に至るまで、そこまで揃える必要があるのか、というほどヨーロッパ的な美形ばかりの出演者たちに圧倒されます。勿論リー・ピンビンのキャメラの功績もあるのでしょうが、このこだわりは異常です。役者から風景に至るまで、美しくないものは一片足りともキャメラに納めないぞという強固な意思を感じました。リアリティに重きを置く現代映画において、この現実離れした美しさは前衛的ですらあります。
美にこだわるヨーロッパの監督なら大先輩のルキノ・ヴィスコンティがいますが、ヴィスコンティは美しいものと同時に必ず醜いものも見せ、同時に愛することを自分の美学としていました。トラン・アン・ユン監督は、このベルエポック期のフランスの貴族生活をさながら印象派の絵画のように描くことに執着を見せ、美しいもので画面を満たして見せます。
作品は裕福な貴族家庭の、結婚し、子供が生まれ、その何人かは命を落とし、何人かはまた子供を産み…という営みをゆったりと描きます。オドレイ・トトゥからバトンを受け、ひたすら子供を産み続けるメラニー・ロランは、「イングロリアス・バスターズ」のような作品でも際立った美貌でしたが、今作での美しさはちょっとレベルが違います。6人も7人も子供を作り育てている母親がかくも美しいのは信じがたいのですが、この作品はユン監督の理想の美しき大家族なのです。もう一人の主役であるベレネス・ベジョが「ユン監督がボタンを外す肘の角度まで指示して閉口した」とインタビューで答えていますが、まるで小津安二郎監督のような様式美の追求が、この作品の抽象化された家族愛を描くのには必要だったのでしょう。実際、登場人物の臨終シーンには妙にしらけてしまう私も、美しいまま産後のベッドで命を落とすあなたの姿に涙を禁じ得ませんでした。台詞が極端に少なく、自在に現在と過去を往来するこの作品で語られるのは、極めて普遍的な命の継承の物語であり、美しき女優たちの姿はそのまま子を産み、育てる営みの尊さでもあるのです。
※余談ですが、クレジットにイレーヌ・ジャコブの名前がありましたが、気づきませんでした。どこに出ていたのか、わかる方いますか?

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