メロドラマに良識は必要か?有村架純と「ナラタージュ」

前略 有村架純 様

「ナラタージュ」はメロドラマとして撮られています。壁ドン映画などと揶揄される、ティーンタレントが出演する青春恋愛映画とは一線を画するものであり、20代も半ばのあなたには相応しい題材と言えるでしょう。私は物好きなので(失礼)、「あまちゃん」でブレイクする以前のあなたの初主演作「ギャルバサラ~戦国時代は圏外です」を劇場封切で観ています。かなりB級のタイムスリップものでしたが、それでも初めて見る主演の女の子はしっかり演技をしているし、容貌も可愛らしいという印象を持ちましたが、それがあなたでした。その後、「あまちゃん」は勿論、「ビリギャル」も「アイアムアヒーロー」も「何者」も「三月のライオン」も「関ケ原」も劇場で観ていますので、あなたの仕事振りについて全く知らないというわけではありあせん。推測するだけですが、あなたがつい先日まで演じていたNHKの朝ドラ「ひよっこ」での良識派受けする女優というイメージのあなたが、20代半ばを迎え、「三月のライオン」では心に傷を負い不倫に走る女子大生に、「関ケ原」では死地に赴く忍びにと、今までのイメージを払拭する役柄を意識的に選んでいるように思います。

さて、「ナラタージュ」ですが、愛らしく良識的なイメージを脱し、大人の映画に出演するというあなたの戦略的な役選びに反し、どこまでも良識的なメロドラマの域を出ていない、という印象を持ちました。あなたは松本潤演じる教師に思いを寄せますが、二人の関係が具体的に接近するのは卒業後でしかありませんし、精神に変調をきたしている、という市川実日子演じる妻にもどうも関係はバレていないようです。教師と生徒という設定のタブーが活かされることもなく、予告編ではてっきりあなたの存在に気付いた妻が火を放ったのだと思った火事のシーンがそうではないことにかなり失望しました。坂口健太郎演じる新しい恋人から束縛を受けるにせよ、常識外という程でもない。

メロドラマが良識的であることのどこが悪いのか、という反論が聞えてきそうですが、みうらじゅんがその昔「見苦しいほど愛されたい」と看破したように、メロドラマとは常識的な人間が、愛によって狂い、常軌を逸していく姿に本質があります。行定勲監督は、ご丁寧に成瀬巳喜男の「浮雲」を引用して見せます。高峰秀子が森雅之に千駄ヶ谷駅でしたかで「私たちって、行くところが無いみたい・・」と呟く、名シーンです。シネフィルの行定監督がまさかメロドラマの最高峰である「浮雲」に並ぼうという野心を持って今作を作ったとは思いませんが、それでも高峰秀子が「あなたってどうしようもない男よ」と罵りながらも性懲りもなく森雅之の元に走り、森は森で、高峰秀子を大切にすることなく、浮気を繰り返し金をせびり、最後には屋久島にまで連れまわし高峰秀子を死なせてしまうこの作品が、常識や倫理からは程遠い衝動に貫かれており、その理屈の無い行動の「どうしようもなさ」がこの映画を永遠に輝かせていることを行定監督がわからずに引用するはずがありません。

それに比べると「ナラタージュ」の登場人物たちは余りにも他人を気遣い、潔く身を引きすぎます。もしかしたら行定監督は、この作品の松本潤を森雅之的な優柔不断さを持つ人物として描こうとした可能性もありますが、文字通り「役者が違う」と言わざるを得ません。

推測するに、有村架純と松本潤というアイドルを起用しながら、愛に狂い良識を失っていくメロドラマを作るのは様々な制約上無理であることを行定監督はわかっていて、それでも本当のメロドラマとはこのような情動的なものだというメッセージを「浮雲」に込めたのではないでしょうか。そうでなければ、映画好きでなければ知ることが無く、映画好きであれば決して好感を持たないような「浮雲」の引用をするはずがないと思うのです。

そのような良識的なメロドラマは、残念ながら私の心に響くことはありませんでした。あなたは良識的な女優というイメージを払拭することが出来ず、むしろこの作品の良識的な側面に一役買うことになった。もう一つ、行定監督はトリュフォーの名前を出しています。そして坂口健太郎演じる若者に靴職人を目指すという口実を与え、あなたの素足を何度もスクリーンに映してみせます。これも、恋愛映画の名手たるトリュフォーは同時に常軌を逸した脚フェチであることへのオマージュなのですが、このような映画からの引用も、良識の枠内で撮られた作品には虚しく感じられました。

辛口の批評ばかりしてしまいましたが、あなたの熱演が無駄であったと言いたい訳ではなく、この長尺を持たせていたのは何よりあなたの観客を引き付けずにはおかない魅力だと思います。坂口健太郎との口論のシーンで思わず口を衝くような強い口調も魅力的でした。メロドラマ、そして女性映画は日本映画の最も得意とするところですから、あなたには制約無く挑戦的な役に挑んで頂きたいと願っています。

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