ライトなスポ根 西野七瀬と「あさひなぐ」

前略 西野七瀬 様

私は乃木坂46のメンバーを誰一人知りませんし、原作漫画の存在も知りませんでしたのでこの作品を語るのに最も相応しくない人物かも知れません。それでも日曜の朝からわざわざ今作を観に新宿まで出掛けたのも、監督である英勉氏の前作「トリガール!」が中々面白かったからです。

英監督のユニークさは、青春映画にあって恋愛を大して重要なことと扱わないドライさと、ギャグを台詞に頼らず、カットの間で見せるセンスです。今作も、恋愛対象となるような男性は殆ど登場しません。恐らく、あなたと白石麻衣演じる先輩の関係がそれに当たるのでしょうが、女性同士の思慕感情だとしても、随分とあっさりしていています。

原作は未読ですが、少なくとも映画に限っては構造的に「エースをねらえ!」と同一の物語です。しかし、異性は登場しない。竜崎麗香(白石麻衣演じる真春)と緑川蘭子(生田絵梨花演じる一堂寧々)はいるけれども、宗方コーチは(中村倫也演じる軽薄な顧問教師ではなく)江口のりこ演じる坊主頭の女僧に変質し、藤堂さんも尾崎さんも不在です。そして、岡ひろみが竜崎麗香に抱く感情ほどには、あなたが演じる旭が、白石麻衣演じる真春に抱く感情は複雑ではなさそうです。

この作品は、近年邦画で量産されている典型的な「部活もの」です。百人一首やチアダンスや人力飛行機ではなく、今回の題材は薙刀。ちょっと目先の変わった競技なら何でも良いかのようです。現代の宝塚とも言うべきAKBから始まったプロジェクトに、ほぼ男子禁制といえるこの競技は相応しいようにも思いますが、薙刀が武家の女性の武術として栄えたことを考えると、戦前の日本への回帰のようにも思え、某首相や都知事の唱える右傾化に潜在的に同調し加担しているような懸念も感じます。

そのような外野の懸念はさておき、「部活もの」の機能的側面、つまり大人数を一気に登場させることが出来るメリットを最大限に活用し、乃木坂46のメンバー(どのようなポジションの人たちなのかは存じませんが、きっと人気者たちなのでしょう)が活発に動き回り、作品は進みます。「エースをねらえ!」のような苦悩は無いけれど、お蝶夫人のようなカリスマと熱狂は無いけれど、ヒロインであるあなたの成長物語としての側面はささやかに担保され、ライトなスポ根として面白く観ることが出来ました。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です