エル・ファニングと「パーティーで女の子に話しかけるには」

前略 エル・ファニング 様

今年公開された、あなたの出演作品は「ネオン・デーモン」に始まり「20センチュリー・ウーマン」「夜に生きる」そして今作と4本に上りました。どの作品においてもあなたは強烈な印象を残しており、特に「20センチュリー・ウーマン」ではアネット・ベニング、グレタ・ガーウィグを相手に堂々たる演技を披露していたことが忘れられません。19歳にして既に大女優の貫禄です。

あなたが演じるのは、現代よりも少し過去の物語のキャラクターが多いように思います。「20センチュリー・ウーマン」しかり、私に最初に強い印象を残した「スーパーエイト」からしてがそうでしたし、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」「夜に生きる」もそうです。「ネオン・デーモン」や「ヴァージニア」もどこか過去の物語のようでした。きっとあなたには少し現実離れした存在感があり、そのことがノスタルジックでクラシカルな物語を構築する際に、映画作家たちの創造力を刺激するのでしょう。その中であなたは主に「自ら望んでいるわけではないけれど、周りが放っておかない突出した魅力を放つ女の子」として描かれています。そしてあなたが作品で見せる、少し猫背で伏し目がちな表情は、その事実にいつも居心地の悪さを感じているかのようです。

今作であなたが演じる宇宙人のザンはまさにそのようなあなたの出演歴の系譜に連なるものであり、パンクの嵐が吹き荒れる70年代ロンドンを舞台に、異世界からやってきた女の子の役を演じています。ザンと、パンク少年であるエン(アレックス・シャープ)との出会いと冒険、別れの物語。監督のジョン・キャメロン・ミッチェルと言えば「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の作者ですから、一筋縄では行かない物語展開と演出です。

あなたが映画で身にまとうファッションは、あなたをファッションアイコンとして魅力的に見せてくれますが、今作では近未来ファッションや、70年代のパンクファッションで観客を楽しませてくれます。とりわけ、パンクの時代を感じさせるのが、エンの衣装を借りてのオーバーサイズのコートの着こなしであり、とてもチャーミング。今作の衣装デザインのサンディ・パウエルはトッド・ヘインズ作品(「ベルベッド・ゴールドマイン」「エデンより彼方へ」「キャロル」)を手掛けていることからも分かるように、時代考証を取り入れながら衣装で見事な作品世界を作り上げるデザイナーで、今作はこの衣装デザインを見るだけでも一見の価値のある作品と言えます。

今作は母船から一人はぐれて地球人と交流する「E.T.」のロンドンパンク版とも言えそうですし、パンクシーンという異世界を訪問する「ローマの休日」でもあり、シュールなセックスシーンは「地球に落ちてきた男」を想起させます。そのような意匠ではありますが、ザンが仲間たちのもとを抜け出して自分の感じるままに生きようとするように、そして宇宙人たちが無理な延命をやめて、自然に任せて生きることを選択するように、本質的なテーマは既成概念という呪縛から逃れ、集団意識より個として自由に生きることです。「ヘドウィグ~」がそうだったように、このテーマはJ.C.ミッチェル監督のライフワークでもあるのでしょう。そのようなテーマが現代的なのか?普遍的な一面を持っていると思いますが、現代でそれを語るには、社会は多様化し過ぎている。その為、テーマをより際立たせるために選んだのが、ロンドンパンクが未だ反逆のシンボルだった時代だったのではないでしょうか。

あなたがパンクファッションに身を包み、地下クラブでエキセントリックに自らの言葉を吐き出す姿はまさに「サマになって」いて、今作の最大の見せ場ですが、その歌で歌われる最後の一節はザ・ビートルズの最終曲「The End」からの、「結局のところ、あなたが受け取る愛はあなたの差し出す愛に等しい」という有名な一節です。そしてこのことが、作品のテーマがザ・ビートルズ的な普遍的なメッセージを掲げていることを告げているのです。ロンドン・パンクの精神を借り、エル・ファニングという過去がよく似合うアイコンを旅の伴侶としなければ、語りえない物語だったのかも知れません。

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