シエナ・ミラーと「ロスト・シティZ失われた黄金都市」

前略 シエナ・ミラー様

第一次世界大戦をまたいでアマゾンを三度探検した実在の探検家パーシー・フォーセットを描いた今作を観ながら、私はある作品を思い起こしていました。危険を知りながら否応なく引かれ、何度も死地に赴く男。同様の題材の作品として、クリント・イーストウッド監督の「アメリカンスナイパー」を思い出していたのです。ジャングルの河を遡る物語なら「地獄の黙示録」や「アフリカの女王」、最近なら「彷徨える河」を思い起こすものですが、「アメリカンスナイパー」の連想は、ブラッドリー・クーパー演じる兵士を幾度もイラクに送り出す妻を演じていた女優が、今作ではパーシー・フォーセット(チャーリー・ハナム)を同様にアマゾンの地に送り出す妻を演じていたあなたであることと無関係ではありません。ジェームズ・グレイ監督も、家族の身を案じながらも強い意志を貫く女性像を「アメリカンスナイパー」で妻を演じたあなたに重ねて配役をしたのかも知れません。

パーシーをはじめ、幾度も生死を共にする盟友ヘンリー・コステイン(ロバート・パティンソン)、パトロンにして後に敵対するジェームズ・マレー(アンガス・マクファーデン)、最後の探検を共にする息子ジャック・フォーセット(トム・ホランド)と、男たちの探検を描く今作にあって、あなたは作品中の紅一点の存在としてイギリスの社交界で夫であるパーシーを支えます。面白いのは、立身出世の野心から探検に関心を示すパーシーに対し、あなたはもともとさほど夫の出世に関心が無いように見えることです。それでいて、夫の探検の成果を裏付ける資料を自分が見つけると、夫が演説する舞台に自分も立てないものかと訴えたり(女性は壇上に上がれない、と拒否されます)、二度目の探検に同行すると言って夫を困らせたりします。ただ祖国イギリスにいて、遠くアマゾンの地にいる夫を案じているだけの妻ではなく、あなたもまたアマゾンに魅入られ、心は夫と同様に探検に赴いているようです。息子であるジャックもまた、探検に出るにはまず何よりもあなたの承認を得るために頭を下げなくてはなりません。このような独立心を持った女性像を描くことで、この作品が単にアマゾンの冒険譚ではなく、その前後の家族の物語であり、探検に出る意味や葛藤、探検によりもたらされたもの、奪われたものに焦点を当てた作品であることを示しています。

ジェームズ・グレイ監督の前作「エヴァの告白」と同様、ダリウス・コンジの撮影が素晴らしく、アマゾンの闇も、イギリス社交界の室内も、第一次世界大戦の戦場も見事の描き切っています。探検も三度目になり、現地人との交流にも不自由なく、息子との探検を楽しんでいるようにさえ見えるパーシーに最後の、最大の試練が訪れます。彼はそれを世界の神秘として受け入れる覚悟をします。人生を通して思い浮かべるのは探検の日々ではなく、あなたや家族のことです。パーシーとジャックがその後どうなったのか?史実が不明であるように、映画でもはっきりとは描いていません。作品は、夫と息子が生存していることを信じるあなたが、鏡に映された画面の左側に現れたアマゾンの森へ消えていくカットで終わります。これと全く同じラストカットを、私たちは「エヴァの告白」で眼にしています。画面左側の窓の外で、船を漕ぎ去っていくマリオン・コティヤールを捉えたカットです。「エヴァの告白」同様に去っていく女性を捉えたラストカットを持つことが、この作品が単なる冒険譚ではなく、激動の時代を生きた女性の物語でもあることを伝えています。

 

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