第31回東京国際映画祭「テルアビブ・オン・ファイア」

第31回東京国際映画祭コンペティション部門「テルアビブ・オン・ファイア」(サメフ・ゾアビ監督/ルクセンブルク、フランス、イスラエル、ベルギー)鑑賞。

あらすじ
サラムはエルサレムに暮らすチャーミングな30歳のパレスチナ人。
「テルアビブ・オン・ファイア」という人気メロドラマの制作インターンをしている。撮影所に通うため、毎日毎日、面倒なイスラエルの検問所を通らなくてはならない。
ある日、検問所の主任アッシと知り合う。ドラマの熱烈なファンである妻に自慢するため、アッシはドラマの脚本に関わることに。アッシの脚本案で、サラムは正式脚本家に出世することになった。サラムの業界でのキャリアアップに火がつくが、アッシとスポンサーがドラマの結末に不満を抱く。
(東京国際映画祭オフィシャルサイトより)

今回の映画祭で、題名の格好良さでは随一の今作。戦争アクションか、はたまた政治ドラマかと思って観始めると、ソープオペラの舞台裏を描いたコメディでズッコケます。イスラエルを舞台にした、パレスチナとのセンシティブな問題を扱ってはいますが、そんなシリアスさを笑い飛ばすバイタリティに溢れています。しかし、パレスチナとイスラエルは「戦争か降伏か」という現実的ではない解決を求めるのではなく、対立を宙吊りにして永遠の膠着状態を続けようという、ある意味では過激な筋書きを提示する、一筋縄ではいかないタフな映画でもある。程よいラストシーンもあり得たと思いますが、思いっきりギャグに振り切った結末も、これはこれで悪くないと思いました。

オスロ合意には心底失望した、というアラブ人のセリフには、当時テレビでニュースを観て、きっと少しは良い方向に向かうのだろうと、日本で楽天的に考えていた自分が恥ずかしくなります。この困難な問題をコメディで描く姿勢は、映画ならではの世界との対峙の仕方で、チャップリン的ともルビッチ的とも(勿論この作品はあれほど苛烈な映画ではないにせよ)言えます。世界が多面的であるように、映画の問題の捉え方もまた多面的であることを知ることは、多くの国から様々なタイプの作品が集まる映画祭の醍醐味でもあります。

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