第19回東京フィルメックス「川沿いのホテル」

オフィス北野が運営から降りて存続が危ぶまれていたフィルメックスですが、木下グループの支援で今年も無事開催です。無事、と言うよりも今まで以上に注目作が多く、映画ファンとしては嬉しい限り。しかし、この木下グループというのは何故にこんなに文化事業、特に映画事業に力を入れるのか。少々不気味に感じるのは私だけでしょうか。

今年のフィルメックスのオープニング上映はホン・サンス監督の新作「川沿いのホテル」。今年、思いがけなく4本もの新作が同時公開されファンを喜ばせてくれたホン・サンス作品がまたもや上映されるということで、今年のフィルメックスの充実ぶりが伺えます。

物語は題名通り、川沿いのホテルに集まった詩人(キ・ジュボン)とその二人の息子、恋人と酷い別れ方をして傷心の女性(キム・ミニ)と彼女を慰める女性の先輩達の、いつもながらのホン・サンス的会話劇です。制作順では「それから」「草の葉」の次。いずれもモノクロ撮影でクラシック調の旋律が流れる共通点を持ちます。そして勿論、ホン・サンスのミューズ、キム・ミニが出演。

いつもながらのホン・サンス、と書きましたが、今作にはこれまでには観られなかった要素もあります。それは、死の影です。自己憐憫の情に駆られることの多いホン・サンス作品の主人公(多分に監督自身が投影されているものと思われる)ですが、実際に死に至るのは初めてではないでしょうか。主人公と息子達のやりとりに大いに笑わせられた後だけに、最後に訪れる死にホン監督の変化のようなものが感じられ、冷やりとさせられます。

キム・ミニもこれまでと異なり、作品の中心に存在すると言うよりこの川沿いのホテルに偶然居合わせた観察者のような存在で、この傾向は前作の「草の葉」でも見られました。映画はキム・ミニと彼女の先輩女性がベッドで涙を流しながら抱き合うカットで終わります。彼女たちは何を嘆いているのか。死を意識し人間の無常に眼を向け始めたホン・サンス監督の、作家的な変化を示しているように思えます。

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