トニ・コレットと「ヘレディタリー 継承」もしくは「マダムのおかしな晩餐会」

前略 トニ・コレット 様

ここ数年のホラー映画で最もコワイと評判の「ヘレディタリー 継承」を観ました。偶然にもその前日に「マダムのおかしな晩餐会」を観ており、奇しくも二日連続でトニ・コレットが出演している作品を観ることになったのですが、両作に共通している、奇妙なホームドラマとも呼ぶべき不安定で常識を逸脱していく家族の映画の中心に、不安を増幅するトニ・コレットの苦み走った「顔」が居座っていることは興味深い事実です。この2作品はいずれもホラー、コメディといったジャンル映画から逸脱していくユニークさを併せ持つ傑作です。

ホラー映画ですので「ヘレディタリー 継承」の粗筋を詳述するのは避けますが、トニ・コレット演ずる主人公アリーはミニチュア模型のアーティストであり、自分や家族の身の回りに起きたことを模型で再現しています。一見まともに見えるアリーですが、物語の当初から語られるこのミニチュア模型と現実との錯綜ぶりが既に常軌を逸しており、祖母と夫、二人の子供の家庭に不吉な影を落としています。物語はこの家族の悪夢のような破滅を描いており、これが初監督作品だというアリ・アスター監督が静謐なタッチで一つ一つ禍々しいイメージを積み上げて行き、近年で最も恐ろしいホラー映画という評も、あながち間違いでは無いかもしれません。私自身、鑑賞直後にはさほど恐怖は感じませんでしたが、こうして2週間ほどたった今もこの作品のイメージから逃れられずにいます。追い詰められていくアリーを演じるトニ・コレットの表情はひきつり、観客を恐怖の物語へ誘います。精巧なミニチュア模型は尋常ならざるイメージを孕み、物語の当初からアリーは狂っていたのではないかと思わせます。そう、「シャイニング(80年)」のジャックのように。

「マダムのおかしな晩餐会」ではパリに暮らすセレブリティの女主人がその傍若無人な振る舞いでメイド(ロッシ・デ・パルマ)の人生に転機をもたらすことになるのですが、ここでも夫と愛人がいて、夫にもまた若い愛人がいて、家族同様に振る舞いながらも根底では見下している移民のメイドがいて、と不自然な家族を形成しています。その中心にいるのはまたしてもトニ・コレット。映画の方も、一見、メイドが上流階級の金持ちに見染められるシンデレラストーリーですが、極めてビターで現実的な展開を見せます。トニ・コレットは恋にのぼせるメイドを苦々しく、やがては達観して観察する女主人を例によってニヒルな表情で演じています。

このように一種のジャンル映画から微妙に逸脱していくユニークな2作品を通して、トニ・コレットの作品選びの独特の嗅覚のようなものを感じます。オーストラリア出身の彼女のことは誰もが「シックス・センス(99年)」や「マイ・ベスト・フレンド(15年)」といった作品で知っており、それらも少々癖のある作品群でした。「ヘレディタリー 継承」ではエグゼクティブプロデューサーも果たしているようです。この作品は今や飛ぶ鳥を落とす勢いのニューヨークの独立系プロダクション「A24」の製作。ハリウッドの周縁から痛烈な一撃を放つトニ・コレットにはこれからも注目する必要がありそうです。

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