第32回東京国際映画祭「マニャニータ」
コンペティション部門「マニャニータ」を鑑賞。ポール・ソリアーノ監督、ラヴ・ディアス脚本。
顔に火傷の痕を持つ女性スナイパー。除隊後に酒に溺れる日々を送っていたが、一本の電話により、過去に因縁を持つ相手への復讐の為、長年離れていた故郷へ向かう・・と、筋書だけを書き出すとエキサイティングな映画のように思えますが、そこは「スロームービー」で知られるラヴ・ディアスの脚本ですから、ワンシーンが異様に長くスタティックで、143分という決して短くない上映時間の、その半分ほどになっても殆ど話が進んでいないというような特異な映画です。登場人物はほぼ、主人公の女性一人。確かな撮影による緊張感のあるショットの持続が印象的です。
映画を観ていると、バーで、路上で、霊歌として、様々な歌が奏でられ、歌による改心というのがこの作品のテーマであることに次第に気付かされます。作中のテレビニュースでは犯罪者が警察隊の歌により心が動かされ投降したというようなことが報道され、映画の終盤でも同様のことが起こる。私たち観客はこれを一種の理想でありファンタジーであると一旦は受け止めるのですが、エンドクレジットで、これが麻薬犯罪に対する過激な取り締まりで知られるドゥテルテ政権下のフィリピンで実際にあったことであると知らされます。昨日鑑賞したラヴ・ディアス監督の「停止」同様、この作品もフィリピンの強硬な政権に対する異議申し立てであり、自国の政治にアクチュアルに反応したものだとわかります。現代映画を観るということは世界を知る一つの有効な手段だと思いますが、商業ベースに乗りにくいこのような作品に触れるのも、映画祭の楽しみだと感じます。