第32回東京国際映画祭「チャクトゥとサルラ」
コンペティション部門「チャクトゥとサルラ」(中国/ワン・ルイ監督)を鑑賞。
モンゴルの広大な草原で羊の放牧をして暮らす夫婦、チャクトゥとサルラ。夫のチャクトゥは都会に出たいと願い、妻を置いて家を空けることも多い。サルラは生まれ育った土地に愛着を感じ、離れたくない。この夫婦と、モンゴルに暮らす友人たちを中心とした物語。ここに残るか、都会で暮らすか。夫婦の間でこの葛藤が繰り返されます。
「夫婦善哉(55年)」をはじめ、放蕩に明け暮れる男としっかり者の妻というテーマは過去何回も描かれており、更に「浮雲(55年)」のような長年に渡る男女の腐れ縁映画の系譜でもあると言えそうです。このような作品では夫がダメ男なだけでなく憎めないところが必要だし、女性もしっかりしているだけではなく弱いところも見せてこそ、関係が成立します。その意味で今作の夫婦を演じる二人のモンゴルの俳優はチャーミングさを兼ね備え、作品に説得力を与えています。チャクトゥ役の男優は身勝手な行動を見せながらもモンゴル男性らしく見事な乗馬を腕前を見せますし、サルラ役の女優も歌声を披露したり、とても魅力的。
そして、特筆すべきは見渡す限り何もないモンゴルの草原の四季を描いたキャメラです。冬に訪れるブリザードは余りに過酷で、夏の草原に落ちる夕日は余りにも美しい。世界の果てのようなモンゴルの大地が、もう一人の主役と言えそうです。