第21回東京フィルメックス「風が吹けば」
コンペ作品「風が吹けば(フランス・アルメニア・ベルギー /ノラ・マルティロシャン監督)」を鑑賞。
アゼルバイジャンとアルメニアの中間に位置するナゴルノ・カラバフ地区。帰属を巡って両国の火種となっており、現在は停戦中ということですが今でも散発的に軍事衝突が続いています。つい2日ほど前にも首都ステパナケルトに爆撃があったとの報道がありました。
作品は、このナゴルノ・カラバフ地区にあり現在閉鎖されている民間空港を再開するため、フランスから派遣された査察人が主人公。再開を促す空港側と査察人、報道のキャスターとの物語ですが、一方で空港から水道水をくみ出し、周囲の貧しい人々に売る少年の姿も描き出されます。映画の中でタクシーの運転手が査察人に対し、「世界はボスニアしか知らない、このナゴルノ・カラバフ地区のことなど気にも留めない」というようなセリフがありますが、私自身も映画を観るまでこの地区の問題を知りませんでした。そういう意味では映画は世界を知る一つのきっかけであり、通常触れることの少ない映画作品を紹介する映画祭の意義でもあると思います。
このような政治的なテーマを抱えながら主人公の査察人の物静かなキャラクターに合わせて映画は静かに進行していきます。終盤で主人公は思わぬ行動に出て周囲を困惑させますが、突発的な衝動に駆られてしまう程の閉塞感がこの国を支配しているのでしょう。派手さはありませんが、世界の在り方の困難さに目を向けさせてくれる作品です。