2019年映画ベスト

2019年に映画館で鑑賞した封切新作映画137本(邦画51本、洋画86本・映画祭鑑賞作品含む)のうち、印象に残った作品と、主演女優賞と助演女優賞を。

邦画作品
嵐電(鈴木卓爾監督)

宮本から君へ(真利子哲也監督)

ホットギミック ガールミーツボーイ(山戸結希監督)

主演女優賞
望月衣塑子(i 新聞記者ドキュメント)

助演女優賞
池脇千鶴(半世界)

NETFLIXに代表されるように映画の在り方が変わってきていますが、映画作りにおいても様々な形が見られました。伝統的な撮影所出身の中島貞夫監督の「多十郎殉愛記」、インディーズを母体とした「月夜釜合戦」「まく子」「メランコリック」、日本の映画業界とは異質の出自を持つ石川慶監督の「蜜蜂と遠雷」。①は鈴木卓爾監督が京都造形芸術大学映画学科のプロジェクトとして手掛けた作品で、映画の作り手にアマチュアが介入することにより、映画を作る過程そのものの生々しさが生まれ、同時に感情を揺さぶる作劇との融合がなされていて素晴らしかった。三宅唱監督が山口情報芸術センターと作った「ワイルドツアー」も同様の方法論で作られていて、優れた映画作家が図らずも同じ方向を向いているのが興味深いと感じました。自主映画出身の真利子哲也監督の②、山戸結希監督の③もまた、映画を刷新していこうという気概と手応えのある作品。両作とも終盤にスペクタクルなシーンが準備され、エンターテイメントとしても一級だと感じました。②は出演者のピエール瀧の麻薬事件により助成金を取り消されそれに対し提訴するという事態に発展し、 KAWASAKIしんゆり映画祭では「主戦場」の上映中止を巡り表現の自由が議論されるなど、映画が現実とは無縁ではいられないことが露わになった一年でもありました。

そのような一年ですから、主演女優賞は、敢えて森達也監督の「i 新聞記者ドキュメント」の望月衣塑子氏を。 普通で考えれば「よこがお」の筒井真理子、「岬の兄妹」の和田光沙、「火口のふたり」の瀧内公美のいずれかだと思いますが、 主演女優の定義を”作品のど真ん中で体を張って踏ん張っている存在”とするなら、キャリーバッグを引き摺り、現場を駆け回り官房長官に食い下がる望月氏の姿は主演女優と呼ぶに相応しいと感じます。(彼女の振舞いが芝居がかって作為的という意味ではありません。念のため。)

助演女優賞は阪本順治監督「半世界」の池脇千鶴に。主人公は三人の男たちですが、それを引き受ける”母性”の存在が彼女が演じることによって際立っていた。彼女はどんどん良くなっている、と感じます。

洋画作品
COLD WAR あの歌、2つの心 (パヴェウ・パヴリコフスキ監督)

②ビル・エヴァンス タイム・リメンバード(ブルース・スピーゲル監督)

バーニング 劇場版(イ・チャンドン監督)

主演女優賞
ヨアンナ・クーリク(COLD WAR あの歌、2つの心

助演女優賞
シシー・スペイセク(さらば愛しきアウトロー)

撮られた時から既に古典の風格を持つ作品があるものですが、①はまさにそれ。歴史に翻弄される祖国への愛憎半ばする感情、映画作家の個人史、古典的なメロドラマとしてのルック。これだけの濃密なドラマをわずか88分で描き切っているのが素晴らしい。悲しき「オヨヨ~イ」のメロディが今も耳に残って離れません。②は、数ある有名ミュージシャンの音楽ドキュメンタリーの中でも特に心を動かされました。単なる過去映像の編集を越え、ビル・エヴァンスの音楽に敬意を払い、悲劇的な人生を共に歩み直し、出来ることなら彼の魂に安らぎの場を与えたいという真摯な制作陣の態度に胸を打たれます。麻薬に溺れ、数々の悲劇に見舞われながらも彼の音楽は最初から最後まで、甘美だった。この作品を観たら、真っすぐ家に帰って彼の音楽を聴きたくなります。誰もがそうするはずです。③は村上春樹の原作ながら、彼の作品の核である存在と非存在の曖昧さ、不安定さが日本固有のものでなく今や世界的な心象風景なのだと教えてくれます。映画という虚構だからこそ、現代に深く切り込むことが出来た作品として心に残りました。

主演女優賞には①のヨアンナ・クーリクを。この作品は要するに「女の一生」ものですので、このような映画で主演を演じ切って作品を成功に導ける女優というのは、中々いないと思います。

助演女優賞は、シシー・スペイセクに。ロバート・レッドフォードと共にアメリカ映画の懐かしい顔を観ることが出来て嬉しく感じました。

Follow me!